ごあいさつ
本日は「なごみ管弦楽団」第6回定期演奏会にお越しいただき、真にありがとうございます。
年に一度のご挨拶なので、つい同じ気持ちを書いてしまいますが、私達が6年前の出発に際して心に置いた「名曲を楽しく演奏しよう」という原点は、「来て下さった方々に楽しく聴いていただく」という目標と両立してこそのコンセプトです。しかし、当然ながら、これがなかなか簡単ではありません。
多くの名曲には、作者の超人的な霊感、人々の心に共感をもたらす偉大なる普遍性、古今の重要な学問を修めることに勝るとも劣らない知力、等々が凝縮されており、これを表現することの果てしなく遠い「道」を感じないではいられません。私達はこの「道」を、仲間とともに、少しずつですが、いつまでも前進し続けたいと願っています。
今回も名曲であり難曲でもある3つの素晴らしい作品の演奏を、皆様からの笑顔と暖かい拍手を頂く幸せのために、力の限り努めます。なごみ管弦楽団 団員一同
曲目紹介
◇ヴェルディ/歌劇「ナブッコ」序曲
なごみ管弦楽団では今回ヴェルディのナブッコ序曲をとりあげます。ヴェルディは今年ワーグナーと共に生誕 200 年を迎えました。ワーグナーにはゲルマンの伝説をもとにしたオペラが多いのですが。ヴェルディは旧約聖書やエジプトが舞台の作品が目につきます。ドイツとイタリアの偉大なオペラ作曲家が同じ年に生まれたというのは面白い偶然ですね。
さて本日演奏するのはヴェルディ3作目のオペラで出世作「ナブッコ」の序曲です。オペラの中の曲をまとめたものです。はじめに金管楽器特にトロンボーンとチューバによるすばらしいコラールがでてきます。のちに有名な「行け!我が思いよ黄金の翼に乗って」のメロディがオーボエとクラリネットで演奏されますが、よく聴くとリズムがちがいます。
この曲はたいへん有名で第2のイタリア国歌などともよばれヴェルディがなくなったときも演奏されたそうです。しかし、この曲以外はオペラの中で裏切りとかいけにえとかおそろしい歌詞がついていて、とても作中以外で口ずさむ気にはなりません。せっかくヴェルディの美しいメロディなのに嘆かわしいです。
ナブッコとは「ネブガドネザル」というバビロニアの王様でナブッコは旧約聖書に基づいたお話です。ヨーロッパで聖書に基づく作品がよくありますが、オペラなどはほとんど旧約聖書ですね。新約聖書に基づくと宗教曲になってしまうからでしょうか。話の筋は宗教とは関係ないような気がしますが。ちなみにヴェルディとはイタリア語で緑のことで、日本にも「ヴェルディ」という緑のユニフォームのサッカーチームがあります。
◇ベートーヴェン/交響曲第 4 番
なごみ管弦楽団ではベートヴェンの交響曲をすべて演奏しようという目標のもと今年は第 4 番をとりあげます。この曲はシューマンが2人の北欧神話の巨人にはさまれたギリシアの乙女と言ったといわれるとおり斬新で有名でコワモテな交響曲第3番「英雄」と交響曲第5番(俗に言う運命)にはさまれていながらモーツアルトをほうふつとさせる古風な交響曲です。
1楽章には緩徐な序章ではじまりあとで速くなる。2楽章がゆっくりで3楽章が3拍子のところなど3番で斬新に走ったベートーヴェンが伝統に戻ってきているといってもいいと思います。フルートが 1 本なのはモーツアルトを思わせます。ベートーヴェンはこの曲をあまり時間をかけずに作曲したようです。しかしこの曲は大変難しくプロオケのオーディションでつかわれるほどです。
◇ドヴォルザーク/交響曲第 8 番
[ 第一楽章 ]
夜明け前の山。漆黒の闇。時折沢から木々の間からわずかな生命のうごめきがあっても、空が白々としてもなお、空気はしんと重い。しかし、もうすぐ歌が聞こえる。朝を告げるあの明るい歌が。あのフルートよりも朝の小鳥のさえずりをよく表したフレーズがどこにあろうか。やがて山の中腹から見下ろす多摩丘陵の市街地は、せわしなく灯りをちらつかせ、山麓を終点とする私鉄の駅に電車が滑り込む。一日のはじまりだ。
[ 第二楽章 ]
園芸を趣味にしている友人がいる。畑や温室の用地をわざわざ借りるほど本格的だ。植物を育てるためにまず土を作る。彼の話しぶりは訥々と地味だが、凍った土に温かな水が、火照った土に冷たい水が染み入って、冬を越え夏を越え、やがてあでやかな新種の花が咲き、おいしい作物が実る様子が目に浮かんで思わず嘆息する。彼は園芸と同時にヴァイオリンも嗜む。訥々として端正なヴァイオリン。この第二楽章はそんな彼に少し似ている。
[ 第三楽章 ]
お酒が大好きな友人がいる。小柄で愛嬌のある美人だ。モテることより飲むことが好きで、モテることにはそっと心を痛めている、そういう慎みと心の美しさをもった女性だ。夜の街が似合う彼女だが、最初に出会ったのは木漏れ日の下、大きなヴィオラケースを抱えて微笑むセーラー服姿だった。今は一児の母となった彼女は、相変わらず折にふれ楽しくて賢い酒をガンガン飲んでいる。この第三楽章はそんな彼女に少し似ている。
[ 第四楽章 ]
この交響曲はコンパクトで親しみやすい旋律が多く、学生やアマチュアオケのレパートリーとして非常に親しまれている。この曲を愛し演奏する私達が楽器を始めたのはいつだったか。その頃、この国にはまだ明るい夢があったのか。それとも既に閉塞感で人々の胸元は重くふさがっていたのか。社会が経済が停滞している、それはまた別の話。私達の心には、若いあの日からずっとこの曲があった。さあ、また月曜日が来る。あのトランペットよりも満員電車の発車ベルをよく表したフレーズがどこにあろうか。胸を張れ、電車に乗り込め、明日は月曜日だ。