ごあいさつ
本日は、なごみ管弦楽団第15回定期演奏会にお越し頂き、誠にありがとうございます。「名曲を楽しく、なごやかに」本演奏会では、当団で交響曲全曲の演奏を一度達成したベートーヴェンの作品からプロメテウスの創造物序曲と交響曲第1番、そして当団として初めて取り上げるシューマンの交響曲から第1番の「春」をお送りします。当団として初心に帰るとともに、また新たなチャレンジにも挑む構成となっています。
去年に引き続き、当団の活動はコロナウィルスの感染拡大に大きな影響を受け、出演を見合わす団員も何人か出てしまったのは残念でした。また今年はワクチンの接種が開始となり、普段練習に使わせて頂いている施設の多くがワクチン接種会場として使われ、練習場所のやりくりにも苦労することとなりました。そのような中でも、コロナ第5波のおさまりとともに緊急事態宣言が解除され、本日はホール定員の半数制限が解除された状態で演奏会を開催できます。音楽ができることに喜びと感謝を感じながら、演奏をさせていただきます。最後までゆっくりとお楽しみください。
なごみ管弦楽団 団員一同
演目紹介
◇ベートーヴェン/「プロメテウスの創造物」序曲
「プロメテウス」は、ギリシア神話に登場する神で、ゼウスの命令により、粘土で神々の姿をかたどって人間を作ります。プロメテウスは天界から火を盗んで人間に与えますが、ゼウスは怒ってプロメテウスを岩山に鎖でしばりつけ、その肝臓をハゲタカに毎日つつかせる、という罰を与えます。
火があれば、暗闇を照らし、体を温めることができ、また、金属を加工して様々な物を作ることができることから、「プロメテウスの火」は、文明や科学技術を象徴する言葉としても使われます。
バレエ作品「プロメテウスの創造物」は、1801年3月28日にウィーンのブルク劇場で初演されました。プロメテウスは粘土で2体の人間を作りますが、粗野で無知だったため、芸術と科学の知識、礼節と道徳を教えてその魂を洗練させていきます。
プロメテウスは人間をパルナッソス山(学問や芸術の聖地)に連れて行き、芸術の神アポロに人間への指導を依頼します。アポロはアンフィオン、アリオン、オルフェウスに音楽を、メルポメネとタリアに悲劇と喜劇を教えるよう命じます。テルプシコーレとパンは羊飼いの踊りを、バッカスは英雄的な踊りを教えます。こうしてプロメテウスの創造物=人間は真の人間となるのです。
序曲は、交響曲第1番の冒頭以上にインパクトのある不協和音で始まります。アレグロの部分は躍動感に溢れ、火を盗んだプロメテウスが天界から逃げ出す様子が描かれていると言われています。
コロナ禍において、芸術や娯楽等を楽しむ機会が奪われ、それを悲しむ気持ちすら否定されがちでしたが、やはり、芸術や娯楽は人間にとって不可欠なのだ、とベートーヴェンは教えてくれています。
◇ベートーヴェン/交響曲第1番
やあ!僕はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。去年は僕の生誕250周年を祝う、たくさんの演奏会が延期や中止になってしまったけれど、大丈夫、今年の12月15日までは250歳だから、お祝いは絶賛受付中だよ!
さて、今日はなごみ管弦楽団が、僕の交響曲第1番をしてくれるというので、少しお話ししよう。なお、この団体は、2007年の第1回の演奏会での交響曲第5番を皮切りに、毎年僕の交響曲を取り上げ、2015年には交響曲第9番を演奏してくれた。この意欲的で困難な取り組みに尽力してくれた、設立者の山内響子さんには心から感謝している。
話が逸れた。僕は交響曲第1番を29歳のときに作曲し、1800年4月2日に僕自身の指揮で初演した。この頃、時代は大きく変わっていった。それまでの王侯貴族が支配する世の中が終わりを告げ、僕たち市民が主役になっていく。だから、僕は新しい時代にふさわしい交響曲を書いたのだ。もちろん、大先輩であるハイドンやモーツァルトが作り上げた交響曲の形式は尊重するが、あちこちに新しい試みを加えた。
従来の交響曲は、冒頭にその交響曲の調性を示していた。ハ長調なら”ドミソ”の和音だ。ところが僕が示すのはヘ長調の属七和音だ。そしてとりとめもなく転調を続ける。一体、どこへ連れていかれるの?と不安にさせておいて、第一主題でジャーン!正解はハ長調でした!どうだい?ワクワクするだろう!
第三楽章は”メヌエット”。豪華なドレス姿の貴婦人たちが優雅に踊る音楽・・・には程遠く、めっちゃ速くしてやった!貴族たちの時代はもう終わりだ!
第四楽章は、もったいつけて重々しく始まったかと思うと、目まぐるしいほどの上昇・下降音型が繰り広げられる。僕たち市民が主役となる、新しい時代に向かって走り抜けるのだ!
◇シューマン/交響曲第1番「春」
ベートーヴェン「やあ、ロベルト・シューマン君。今日は君の交響曲第1番について話を聞かせてもらおう!」
シューマン「交響曲に次々と斬新な試みを取り入れ、芸術の究極の高みへと発展させたベートーヴェン先生の前でお話しするのはかなりのプレッシャーです・・・交響曲は作曲家としての力量を問われるもので、書くのにとても勇気が必要ですし・・・」
ベ「君が結婚した翌年に書いたんだよね。幸せの絶頂、まさに人生の春だ!」
シュ「そこに至るまでは大変でした。フリードリヒ・ヴィークにピアノを習ったのですが、右手を故障してピアニストは断念。ヴィークの娘、クララは9歳でプロデビューした天才ピアニスト。クララと相思相愛となり、結婚しようとしたらヴィークは猛反対。誹謗中傷の文書をばらまかれたりして、酷い目に遭いました。結局、裁判に持ち込んで、やっと法的に結婚が認められたのです」
ベ「そりゃ大変だったな・・・」
シュ「クララは私には不可欠の存在なのです。さて、交響曲第1番は、1941年1月、とある詩の一節に刺激を受けて一気に書き上げ、1941年3月31日、友人のメンデルスゾーンの指揮で初演しました。この日は妻が初めて『クララ・シューマン』として演奏した日でもあります」
ベ「まさに人生最良の日だな!」
シュ「ありがとうございます。最終的には削除しましたが、各楽章にタイトルをつけていました。第一楽章『春の始まり』、トランペットとホルンのファンファーレが春の到来を告げ、このモチーフが次々と引き継がれ、楽章全体を華やかに彩ります。第二楽章『夕べ』、わずかに憂いを含んだロマンティックな曲調です。終結部のトロンボーンのコラールは第三楽章のモチーフを予告し、休みなく続きます。第三楽章『快活な戯れ』、このスケルツォは調性と拍子が異なるトリオを2つ取り入れました。第四楽章『春爛漫』、幸福感に溢れた優美な楽章で、小鳥のさえずりのようなフルートのカデンツァを入れました」
べ「解説ありがとう。ところでこれは、君が発見した、シューベルトのハ長調の交響曲に少し似ているね。冒頭の金管のユニゾンと、それを引き継いだ旋律とか」
シュ「はっ。それは否定できないです。あれは、ベートーヴェン先生とシューベルト先生の墓参りをした後に、シューベルトのお兄さんを訪ねたときのことでした。こんな素晴らしい作品があったとは、とても驚き、感激しました。そして私も交響曲を書くきっかけともなりました。そういえば、あの墓参の日、ベートーヴェン先生のお墓でペン先を拾ったんですよ」
べ「ふふっ。あのペン先は、僕が置いたんだ。君に、『書いて』欲しくてね」
シュ「えっ?!」(文責:柳橋千秋)