ごあいさつ

本日は「なごみ管弦楽団」第 9 回定期演奏会にお越しいただき、真にありがとうございます。

私達「なご管」は 10 年前に、これから毎年ベートーベンの交響曲を一曲ずつ組み合わせて「名曲を楽しく演奏し、来て下さったお客様に楽しく聴いて頂く」という目標をたてて船出した小さなアマチュアオケでした。この大きな目標を続けてこられたのは、微力な私達を支援して下さる方々のお蔭に他ならず、心から感謝しております。

昨年、八曲目として第三番「英雄」を演奏した後、次の年は目標の締め括りとして「第九番、合唱付き」を演奏したいけれど私達にできるのだろうか、と大いに悩みました。それが今、例年にも増して実に多くの方々のご支援を頂いて、今日の本番を迎えています。

私達はこれまでの感謝を全て込めて、この一曲を演奏したいと思っています。この曲には、これまでの八曲に込められた美しさと厳しさが総て備わっていると感じます。

1824 年 5 月の初演以来 200 年にもなろうとするこの曲は、作曲者の想像も及ばないような進化を遂げた世界になってしまった現代でも、多くの人々に聴く度に大きな感動を与えてくれます。まさに人智を超越した芸術作品です。

この曲を苦難の果てに産み出してくれた楽聖への心からの崇敬も込めて、力の限り演奏いたします。

なごみ管弦楽団 団員一同

独唱者/指揮者/指導者紹介

ソプラノ

杉原 藍

和歌山県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科を経て、同大学院音楽研究科修士課程独唱専攻修了。卒業時に武藤舞奨学金受賞。第 21回和歌山県高等学校ピアノ声楽コンクール声楽部門第 2 位、第 14回大阪国際コンクール声楽部門歌曲コース Age-U第 3 位。第 24 回友愛ドイツリートコンクール本選入賞。第 19 回コンセール・マロニエ 21 声楽部門本選入賞。中井美内子、平松英子、菅英三子の各氏に師事。

これまでにモーツァルトのオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」デスピーナ役、同じくモーツァルトの宗教曲「ミサブレフィス」ソプラノソリストを務める。声楽アンサンブル「よんもん」所属。

アルト 

花房英里子

県立奈良高等校卒業。京都市立芸術大学音楽学部音楽学科声楽専攻を首席卒業。同時に京都市長賞受賞。東京芸術大学大学院音楽研究科(修士課程)独唱科卒業。第 61回滝廉太郎記念全日本高等学校声楽コンクール第 2 位。2010 年第64 回毎日新聞学生音楽コンクール全国大会入選。2014 年東京芸術大学第 6 ホール竣工記念演奏会で助演。2014 年中央区第九の会『第九』アルトソリスト。2015 年柏メサイアクワイア『マタイ受難曲』アルトソリストを務める。

これまでに菅英三子、小玉晃、竹本節子の各氏に師事。宗教曲ソリスト、オペラ歌手としての研鑽を積んでいる。

テノール 

坂東達也

大阪府出身。幼少よりピアノ、ヴァイオリンを習う。大阪府立夕陽丘高等学校音楽科にヴァイオリン専攻生として在学中に声楽を習い始める。全日本学生音楽コンクール大阪大会奨励賞、全日本高等学校声楽コンクール優良賞、大阪国際音楽コンクール第三位、日本演奏家コンクール第一位などを受賞。高校卒業と同時に本格的に声楽に転向。東京芸術大学卒業、同大学院音楽研究科(修士課程)独唱科修了。

これまでにオーケストラ・アンサンブル・金沢、東京室内管弦楽団、日本センチュリー交響楽団、アンサンブル仙台(仙台フィルハーモニー管弦楽団)、藝大フィルハーモニアなどと共演。声楽を金丸七郎、菅英三子、市原多朗の各氏に師事、和声法・ソルフェージュを國越健司氏に師事。

バリトン 

高田慧一

和歌山県出身。第22回友愛ドイツ歌曲(リート)コンクール入選。東京藝術大学音楽学部声楽科を卒業。現在東京藝術大学大学院修士課程音楽研究科声楽専攻(独唱)に在学中。オペラコンサート等での活動にて、『コジ・ファン・トゥッテ』ドン・アルフォンソ役、『カヴァレリア・ルスティカーナ』アルフィオ役、『カルメン』エスカミーリョ役等の役を演じ、いずれも好評を得る。また、バッハのカンタータ作品、ベートーヴェン『第九』などのソリストを務めている。

研究においては専らドイツ歌曲を取り上げており、修士リサイタルでのドイツ歌曲歌唱にも高い評価を得ている。

これまでに声楽を岩田俊代、河合武彰、多田羅迪夫、福井敬、甲斐栄次郎の各氏に師事。

指揮 

柳橋明徳

1971 年札幌市生まれ。東洋大学経営学部卒業。週末は音楽家。都立日野高校在学中に学生指揮者として東京都高等学校吹奏楽コンクールにて金賞受賞。2005 年富士山河口湖音楽祭「佐渡裕の公開指揮者セミナー」受講生に選出され指導を受ける。

2006 年の創立以来、なごみ管弦楽団の指揮者を務める。

その他「多摩南吹奏楽団」指揮者 (1991 ~ )、「コバケンとその仲間たちオーケストラ」フルート奏者 (2007 ~ )、合唱団「オベリンナー・カントライ」メンバー (2010 ~ )として活動中。

合唱指導 

庄司高太

1967 年東京生まれ。ホルンを澤敦、ヴィオラを渡部啓三、声楽を藤澤眞理の各氏に師事。ザ・ホルン・ア・ラ・モードのメンバー。テオフィル室内歌劇団の特別公演 2012 ではオペラアリアおよび序曲、2014 ではモーツァルトのレクイエムなどを指揮。また、同歌劇団第 3 回公演でコシ・ファン・トゥッテを指揮。

演目に寄せて

「第一楽章」

その地は三つの名高い大河に囲まれ、遠い海からの気流に洗われ、ほぼ常に雨の幕と雲の天蓋に覆われ、永く人類未踏の領域だった。南米・ギアナ高地。

伝説の黄金郷があると云う者もいた。その上空に翼竜の舞う姿を思い描く者もいた。

そこは驚愕の大地だ。

熱帯雨林の奥の奥、絶壁が屹然と眼前を覆う。地球の鼓動に切り取られ、押し上げられ、一筋の水が悠久の時間をかけて巌を穿ち、大いなる意志によって創造された。

天を突くテーブルマウンテンは神々の座に至り、大瀑布は幾重にも虹を従え空の高さを落ちてゆく。密林の色は漆黒めいて静寂の空気を宇宙の夜に染める。 

進化の流れから隔絶された夥しい原始の生命が息づく。

濃密にたち込める霧にも、叩きつける激しい風にも耐えて、生命は、地球誕生の秘密をその身に隠す。創造主の暗号が納められた至高聖所に、不思議の鳥の声がこだまする。憧憬の果ての、最後の秘境。

「第二楽章」

荒野のハイウェイを疾走する銀のシボレー。

父に疎まれた青年の、彫刻のような横顔に昼の陽射しが影を落とす。

家に戻る準備は出来ていたはずだ。青年は忌々しげに頭を振ると、カーラジオのボリュームを上げ、温くなったコーラを一気に飲み干した。

東へ、一度は捨てたあの町へ。

傾きかけた太陽に向かって、土塊のような古いトラックが現れる。埃色の幌を跳ね上げ、大柄な男が降り立った。薄い色の双眸に絶望の色を湛えて。

地平線まで続く立ち枯れた綿花の木。男は地面に膝を着き、苦しげに空を仰いだ。

嗚呼、神などまるで信じてはいないが、家族のためなら神に祈ろう。そして、神をも欺こう。

カルフォルニア、オクラホマ。年老いた作家はペンを置く。

政府は、この国を全力で守ると言った。その日から、日照りの夏の大地のように、人々の心は乾いていった。

噛みしめよ、怒りの葡萄。自由とは一体何なのか。

「第三楽章」

若妻の指はしなやかに布の上を走る。

家族の無事を願う祈りの文様が布いっぱいに彩られる。

窓辺の風は、遠くオアシスのナツメヤシの乾いたざわめき、ビーズの縁飾りを涼やかに揺らす娘たちの笑い声さえ伝える。

器量の良い嫁だよ。働き者で、刺繍の腕は抜群だ。

国境の山脈まで連なる丘は桃色の靄にけぶる。山肌に羊、ヤギ、遊牧のテント、馬、羊。朝餉の支度にたなびく煙。果報者だよ、若い夫は。

やがて、けだるい午後の日差し。

砂漠をゆく旅人が、目を細める。白昼の幻影。

あれは、古の草原の覇者。空の彼方に進軍喇叭を旅人は聴く。馬上の面影は、やがて陽炎の果てに霞んで消えた。偉大なる中央アジア。戦いの記憶は落日に紛れ、茫芒たる大地に夜の帷が下りる。

旅人は帰りを急ぎ、若妻は灯かかげて笑顔で夫を迎える。

平和を。いつまでも、永遠に、この平和を。

「第四楽章」

夕闇に沈む大聖堂。やがて鐘が鳴り荘厳ミサの終わりを告げる。

重い扉がゆっくりと開き、人々は喧騒の街へと繰り出す。

市庁舎前の大きなツリーに何千もの電飾が灯る。それはクリスマスの市。屋台の賑わい、行き交う人の白い息。焼き栗の香り、炙りソーセージ、プレッツェル。

陽気な手廻しオルガン、人形芝居、そろいの帽子の可愛いキャロル隊。

見つめ合う恋人たち、子どものはしゃぐ声、プレゼントを選ぶ家族連れ。広場に設えたスケート場からは、ひっきりなしに若い歓声が上がる。

この町はかつて、慟哭に覆われた。

繰り返す過ち、民族の悲劇。

血飛沫に目を焼かれ、硝煙に喉を塞がれ、大切な人の悲鳴に耳を引きちぎられ、それでもなお、人々は誓った。何度倒れても、立ち上がり、集い、この歌を歌おうと。

ベルリン、栄光と挫折の都。悲しきかな人類愚かなり。

しかし、今宵は約束の聖夜。ホットワインを手に、ホットチョコレートを手に、人々は夜空を見上げる。今、祝祭の花火が人々の頬を明るく照らす。

天のいと高きところに栄光を。

幸あれかし。愛するすべてのものに幸あれかし。