ごあいさつ

本日は なごみ管弦楽団 第 4 回定期演奏会 にお越しいただき真にありがとうございます。

思えば、普段は様々な分野で社会人として過ごす仲間が隔週末に集まって練習するのですが、各パートが十分に揃わない状態での練習がほとんどでした。そんな中で、文句一つ言わず、いつも元気にタクトを振ってくれる我等がマエストロと、実に少ない人数で裏方を務め続けてくれている兼任プレーヤーの仲間達に心から感謝を込めて、そして、仕事中の事故で怪我をして大手術を乗り越えてリハビリ中の大切な仲間の一日も早い本復を心より祈りつつ、本日のステージを勤め上げたいと思います。

独特の宇宙を創りつつある若き日のブルックナー、素晴しき 4 人のホルン奏者が揃い踏みする華やかなシューマン、苦悩の多かった生涯の中でこの曲を創り出した時だけはわずかな平安の時だったのだろうと思われるベートーベン、そんな音楽の魂を、かけらなりともお伝えしたいと思います。なごみ管弦楽団 団員一同

独奏者紹介

太田良彦 

本神戸市出身。十二歳よりホルンを始め吹奏楽、オーケストラ、室内楽、管弦楽アンサンブルなど幅広く活動。故岩城宏之、小林研一郎、黒岩英臣、井上道義、高関健各氏の指揮する演奏会などに出演。2004 年金沢でリサイタルを開催。2005 年 R シュトラウスのホルン協奏曲第一番、2007 年ウェーバーのホルン小協奏曲を演奏。コバケンとその仲間たちオーケストラに所属。これまでに西田末勝、故山本昭一、金星眞、阿部麿各氏に師事。

小口遥 

東京都出身。私立カリタス女子高等学校卒業後、東京音楽大学入学。ホルンを井手詩朗、水野信行に師事。現在東京音楽大学3年次在籍中。多摩ユースオーケストラホルンパートトレーナー。

竹内慶貴 

玉川学園高等部卒業後、玉川大学文学部を経て、現在東京音楽大学 3 年在学中。ホルンを上原宏、吉永雅人に師事。

桜井洋一 

中学よりホルンを始め、都立日比谷高校音楽部、東京理科大学管弦楽団を経て、現在、豊島区管弦楽団、星陵フィルハーモニー管弦楽団に所属し活動中。また、ホルンアンサンブルによる老人ホームへの慰問演奏なども行っている。低音域のエキスパートとして、過去にはジュネス・ミュジカレ・ドゥ・ジャポン、東京マーラーユーゲントオーケストラ等様々なオーケストラに出演。ピアノを石本美佐保氏、ホルンを澤敦氏、西内真幾氏に師事。

曲目紹介

◇ブルックナー/序曲 ト短調

A.ブルックナー(1824 ~ 1896)という人は、敬虔なカトリック教徒として教会のオルガン奏者を務め、40 の齢を超えたところで作曲家に転身した「遅咲き」の人です。「神」の降臨を感じさせるような壮大なスケールの交響曲を 9 曲発表しており、そこに、信仰と音楽が合一した彼の「志向」が現れています。そんな彼でも、「自身の志向」にこだわらずに「与えられた課題」に沿った、「作曲勉強のための習作」をいくつか残しています。この「序曲ト短調」もそんな「習作」のひとつで、与えられた「宿題」に答えるべく 1863 年に書かれました。軽快で演奏時間の短い「心地よい」音楽を目指した作品になっています。

しかし「三つ子の魂百まで忘れず」というものか、全楽器で演奏される荘重な「イントロ」中間部分に流れる複雑な「コード(分散和音)半音進行」 ~演奏者泣かせの非常に厄介な部分です~演奏が難しい部分の「修羅場」をいろいろ経た後、「エンディング」での「天使のラッパ」の神々しいコラールなど、最晩年の傑作「交響曲第 9 番(1896 年、未完)」に見られる特徴が既に現れている、そんな一面もあります。

あまり難しい事を考えずにリラックスしていただければ幸いですが、「軽快だけれども、やはりブルックナー」という「二面性」について、どこか思い浮かべていただければ嬉しく存じます。

◇シューマン/ 4 本のホルンと管弦楽のための小協奏曲

19 世紀にホルンはナチュラルホルンからヴァルブホルンへと移行して行きました。ヴァルブホルンの採用はワーグナーやシューマンにも注目されるようになりました。

当時のホルン演奏のリーダーとされる一派にシュンケファミリーといわれる集団がありました。シューマンはその中の1人ルイ・シュンケの親しい友人でした。こうした交際を通じてでしょうか?シューマンはホルンに魅せられた作曲家の1人となり「ホルンはオーケストラの心である」という言葉を残しているほどです。

1849 年にはホルンとピアノのためのアダージョとアレグロ作品 70、女声と4つのホルンのための狩の歌作品 137、そして4つのホルンと大オーケストラのためのコンチェルトシュテュック作品 86 を作曲しました。

今年はシューマン生誕 200 年にあたり、シューマンの作品がよく演奏されていますが、特にこの曲はソリストの演奏技術とスタミナが相当に要求され、チャレンジするにはとても勇気が要りますが、一方でホルン奏者なら誰もが一度は演奏してみたい憧れの傑作であります。

第一楽章 : いきいきと(ヘ長調)~第二楽章 : ロマンツェかなりゆっくりと、しかし緩慢にならぬよう(ニ短調)~第三楽章 : 非常にいきいきと(へ長調)

3 つの楽章は続けて演奏されます。

◇ベートーヴェン/交響曲第 6 番「田園」

【第 1 楽章】

夜明けを見渡す道は林を抜けて、瑞々しい空へ続く。清涼な朝の空気の中で、不器用な青年の機嫌はよろしくない。何度さらっても青年の弾くフレーズはマエストロの意にかなわないのだ。青年は、鳥の鳴き交う木の梢を見上げる。遠くに川のせせらぎ。カッコウ、カッコウ、クラリネット。ナイチンゲールはフルート。ウズラのオーボエ。そう、このリズム、この音程!青年の頬はかすかに緩んだ。なんと美しい田舎の風景よ!

【第 2 楽章】

盲目の少女は音楽会で、「あなた方のご覧になっている世界とは、あんなにも美しいものですか?」。付き添いの神父は問い返した「あんなにも、とは?」。少女は見えない目で神父を見返した。「あの『小川のほとりの情景』ですよ」。

【第 3 楽章】

葡萄はずっしりと深紅に実り、村は秋の祭の喧騒に包まれる。手風琴の調べはワインの香り。やがて畑は一面の黄金色に染まる。ああ働いた働いた、飲めや飲め。飲めや踊れ、さあ歌え踊れ。

【第 4 楽章】

夏合宿。突然の夕立に歓声を上げ、顧問の声を背に一斉に走り出す。遠くの山は黒くけぶり、雷鳴は近く遠く、雨は目に口に容赦なく流れ込む。友達が笑ってる。何か言っているか雨音に消されて聞こえない。無音と錯覚する一瞬。若い焦燥は、金管やティンパニの響きに紛れ、やがて入道雲の遥かへ消えていった、眩しい14 歳の夏。

【第 5 楽章】

青年は打ち上げの席でビールを傾けていた。町の居酒屋の窓に夕陽が栄える。マエストロは満面の笑みだ。ベートーヴェンの音楽に、降りしく雨のように悩み、嵐のようにがむしゃらに練習した。結局、それほど才能もない。でも青年は思う。雨上がり、雲間から日差し、木々の緑が輝きを増す、その瞬間に似ているから、演奏することが大好きだ。田舎町に夜の帳が降り、青年は眠りにつく前、もう一度チェロの弓を手にとった。