ごあいさつ

本日は、なごみ管弦楽団第16回定期演奏会にお越し頂き、誠にありがとうございます。私たちは「名曲を楽しく、なごやかに演奏する」ことを基本コンセプトとして活動しています。本演奏会で取り上げる曲には、「愛」という共通テーマがあります。ベートーヴェンの序曲「レオノーレ」第3番は夫婦愛を描いたオペラの序曲。当団で初めて取り上げるワーグナーの作品からジークフリート牧歌、そしてメインのシューマン交響曲第4番はいずれも妻の誕生日プレゼントとして贈られたものです。

私たち“アマチュア”の語源は「愛」。当団の特徴は、指揮者も団員(アマチュア)であり、普段の練習から団員が意見を出し合って音楽を作り上げていることがあります。設立以来年1回の演奏会を開催し、16年の時を重ねる中で、少しずつ仲間が増え、充実した響きを出せるようになってきました。コロナ感染の収まらない今年においても、練習時に換気・マスクなど対策を行いながら、活動を継続することができました。本日も音楽ができることに喜びと感謝をこめて演奏いたします。最後までゆっくりとお楽しみください。

なごみ管弦楽団 団員一同

演目紹介

◇ベートーヴェン:序曲「レオノーレ」第3番

ベートーヴェン(1770~1827)は、『レオノーレ』と題したオペラを書きましたが、改訂を重ね、最終的に『フィデリオ』という題名となりました。また、ベートーヴェンはこのオペラを改訂する度に序曲を書いたため、序曲が複数存在します。1806年3月29日に初演された第2稿のための序曲が、本日演奏する序曲「レオノーレ」第3番です。

『フィデリオ』のあらすじをご紹介しましょう。

刑務所長のピツァロの不正を暴こうとしたフロレスタンは、逆に無実の罪で捕らえられ、刑務所に送られてしまう。フロレスタンの妻、レオノーレは男装して“フィデリオ”と名乗って刑務所の看守、ロッコの下で働きはじめ、夫を救い出す機会をうかがっていた。フィデリオの真面目な働きぶりはロッコの信頼を獲得する。ロッコの娘、マルツェリーネはフィデリオに恋心を抱くようになり、彼女の恋人、ヤキーノにも冷たく振る舞う(オペラはこのあたりから始まる)。フィデリオはロッコとの会話で、フロレスタンが地下牢に幽閉され、食事も減らされ、衰弱していることを悟る。そしてピツァロに知らせが届く。「多くの無実の囚人が不法に幽閉されている疑惑があることを知った大臣が、抜き打ちで調査をするために明日出発する」と。ピツァロは大臣の到着前にフロレスタンを殺害し、自分の悪事を隠蔽しようとする。ロッコがフィデリオを連れて地下牢へ行くと、そこにはすっかり衰弱したフロレスタンがいた。ピツァロが登場し、フロレスタンを殺害しようとしたその瞬間、フィデリオが「まず彼の妻から殺せ!」と立ちふさがり、自分がフロレスタンの妻、レオノーレだと名乗る。ピツァロが二人とも殺そうとしたところで大臣の到着を知らせるトランペットが鳴り響き、ピツァロの企みは砕け散る。フロレスタンは他の無実の囚人とともに解放され、自由を喜ぶ。献身的な妻、レオノーレを称える合唱で幕となる。

序曲「レオノーレ」第3番は、地下牢で嘆くフロレスタンの歌で始まり、やがて春風のように心躍る旋律が続きます。そして緊張感がみなぎる場面で大臣の到着を知らせるトランペットのソロが鳴り響きます。これに続くフルートのソロも聴きどころです。

◇ワーグナー:ジークフリート牧歌

ワーグナー(1813~1883)は、ベートーヴェンが活躍していた時代にはまだ主流とは言えなかったドイツオペラを大きく発展させ、「楽劇」という総合芸術までに高めました。なかでも、『ニーベルングの指輪』は上演に4日間(合計約15時間)かかるという、オペラ史上最大規模のものです。

ワーグナーは16歳のときに『フィデリオ』を鑑賞し、大きな感銘を受けました。後に「生涯をふり返ると、与えた影響の点でこれと比べるような体験を見出すことはできない」と語っています。

ワーグナーは多額の借金を踏み倒して逃げたり、刑務所に入ったり、革命運動に参加したり、亡命先でお世話になった貴族の婦人と不倫したり…と破天荒な人生を送ります。ワーグナーは23歳で結婚していましたが、指揮者ハンス・フォン・ビューローの妻であるコジマとの間に2人の子供(長女イゾルデ、長男ジークフリート)をもうけます。ワーグナーの妻が亡くなり、コジマも離婚して、ワーグナーとコジマは1870年に再婚しました。

この年のクリスマスはコジマの誕生日でもありました。ワーグナーは早朝からコジマの寝室横の階段に奏者を配置して静かに演奏を始めました。コジマは音楽を耳にして目覚め、とても喜びました。この曲は後に『ジークフリート牧歌』として広く知られるようになりました。

『ジークフリート牧歌』には、楽劇『ニーベルングの指輪』の第2日目『ジークフリート』の第2幕と3幕のモチーフがいくつか使われています。関連する場面をごく簡単に要約すると…

ひとりぼっちのジークフリートは、森の小鳥に宝のありかと美しい女性のいる場所を教えてもらい、岩山の上で眠る戦乙女のブリュンヒルデを見つけます。ジークフリートはブリュンヒルデにキスをして目覚めさせ、二人は愛の喜びを歌いあげます。

ブリュンヒルデが「ジークフリート!輝く若い芽!」「この世の宝!」と歌い、ジークフリートが「永遠の女性!ずっと一緒だ!」と歌う旋律が『ジークフリート牧歌』でも用いられています。ジークフリートに歩むべき方向を教える森の小鳥の旋律は、木管楽器とトランペットによって奏でられます。

ワーグナーの妻に対する愛情と、子供に対して佳き人生を歩んで欲しい、という想いが感じられます。

◇シューマン:交響曲第4番

シューマン(1810~1856)はライプツィヒ大学で法律を学ぶ傍ら、18歳のときにピアノをフリードリヒ・ヴィークに師事します。このとき、ヴィークの娘で後のシューマンの妻となるクララは9歳でプロデビューした天才ピアニスト。やがてシューマンとクララは愛し合うようになりましたが、父親のヴィークが大反対。シューマンとヴィークがお互いを訴えるまでにこじれますが、法的に結婚が認められ、1840年9月12日に結婚式を挙げました。翌日はクララの21歳の誕生日でした。

1841年、シューマンは交響曲第1番を完成させ、3月31日に友人のメンデルスゾーンの指揮で初演しました。シューマンは引き続きニ短調の交響曲を作曲し、9月13日にクララの22歳の誕生日プレゼントとして捧げられました。交響曲の作曲の順番では2番目ですが、後に改訂を行い、出版されたのが交響曲第3番の後になったため、”第4番”となりました。本日演奏するのはこの改訂版です。

全ての楽章が切れ目なく演奏されます。第1楽章は重く暗い序奏部から始まり、一転して生き生きとした主題が続きます。これは全楽章にわたって用いられます。3拍子になったら第2楽章です。オーボエとチェロによるとてもロマンチックな旋律が続きます。美しいヴァイオリンのソロにぜひご注目を。第3楽章、力強い主部と、可憐なトリオが対照的。シューマンとクララの肖像画でしょうか。第4楽章へは、短調のゆっくりした旋律が次第に速さと明るさを増して、喜びがはじけるようにとつながります。これはベートーヴェンの交響曲第5番にも類似しています。

なお、ワーグナーは1832年、19歳のときに唯一となる交響曲を作曲し、これを耳にした13歳のクララは、シューマンへの初めての手紙にこう書きました。「大変!ワーグナーさんはあなたを追い越したわ!」この挑発的な言葉は、シューマンの作曲の大きな原動力となったかもしれませんね。(文責:柳橋千秋)

◇参考文献

ヴェステルンハーゲン ,C.(三光長治、高辻知義訳)『ワーグナー≪新装復刊≫』、白水社、1995 年

エードラー ,A.(山崎太郎訳)『大作曲家とその時代シリーズ シューマンとその時代』、西村書店、2020 年